長期にわたって借金滞納したり債務整理したりすると、「信用情報」に延滞情報や事故情報が登録されてしまいます。いわゆる「金融ブラック状態」です。
そうなったら、公務員になるのは難しいのでしょうか?公務員試験や自治体や国での採用に影響するのか心配になってしまうでしょう。
今回は借金がある場合や信用情報に事故情報が登録されている場合の公務員就職、また就職後の取り扱いについても解説します。
これから公務員を目指している方、公務員なのに借金がかさんで困っている方はぜひ参考にしてみてください。
1.公務員になれない場合とは?
高額な借金をしている方や、過去に任意整理などの債務整理をした経験のある方は「公務員にはなれないのでは?」と心配するケースが少なくありません。
結論からいうと、借金問題があっても公務員試験や採用には影響しません。過去に借金返済せず延滞履歴があっても、債務整理の事故情報があっても現在多額の借金を抱えていても、公務員にはなれます。
公務員になれない条件は、法律によって定められており、それらに当てはまらない場合には誰にでもチャンスがあるのです。
公務員の欠格事由
公務員になれない条件を「欠格事由」といいます。国家公務員でも地方公務員でもほとんど同じになっているので、以下でみてみましょう。
- 成年被後見人または被保佐人
認知症などになり、自分で財産管理ができなくなった人の中で、家庭裁判所により「後見人」をつけられた人です。こういった人は公務員になれません。
- 禁錮以上の刑に処せられて執行が終わるまでの間の人
- 禁錮以上の刑に処せられて執行猶予期間が終了するまでの間の人
犯罪を犯して禁錮以上の刑罰に処せられ、刑罰が終わるまでの間や執行猶予期間が終了するまでの間は公務員になれません。
- 過去に懲戒免職の処分を受けて、処分日から2年以内の人
過去に問題行動を起こして国や自治体で懲戒免職となり、2年以内の場合には同じ自治体へ就職できません。
- 人事委員会や公平委員会の委員の職に就いていて一定の罪を犯して刑に処せられた人
人事委員会や公平委員会の職にありながら一定の罪を犯して刑罰を受けると、公務員としての資格を失います。
- 日本国憲法施行日以後、憲法や政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成したり、加入したりした人
暴力団などの反社会的勢力、その他の暴力的な秘密結社などを結成したり加盟したりしていた人は公務員になれません。
上記に該当しなければ、基本的に誰でも公務員になれる可能性があります。借金は法律上の欠格事由になっていません。借金トラブルを抱えていても公務員になる資格があるといえるでしょう。
2.信用情報は公務員の就職に影響しない
ただし「欠格事由がない」からといって「採用してもらえる」とは限りません。「信用情報を調べられてブラック状態がバレたら、不採用になるのでは?」と心配になる方もおられるでしょう。
2-1.信用情報に登録される情報
信用情報には以下のような情報が登録されています。
- 現在の借入先、借入金額
- 返済や延滞の履歴
- ローンやクレジットの申し込み履歴
- 代位弁済の履歴
- 自己破産などの債務整理の履歴
借金に関する情報を自治体や国にみられたら、「お金にルーズな人、信用しにくい人」と判断され、採用してもらえないかもしれません。
以下で国や自治体が信用情報を調べる可能性があるのか、解説します。
2-2.国や自治体が信用情報を調べる権限はない
信用情報は重大な個人情報であり、「個人情報保護法」によって厳格に守られています。
たとえ国や自治体であっても自由に参照できません。
信用情報を閲覧できるのは、基本的に金融機関や貸金業者のみです。それも「貸付審査を行う目的」に限定され、採用のために内容を参照する権限は認められません。
たとえば国民生活金融公庫や住宅金融支援機構に審査の申込みをしたら、信用情報を参照される可能性があるでしょう。そうでもない一般の公務員採用の際に、信用情報を参照される可能性はありません。
もしも勝手に国や自治体が応募者の信用情報を参照している事実が発覚したら、大変な社会問題となるでしょう。勝手に見られた人はプライバシー権侵害などを理由として国家賠償を求めることも検討すべき状況となってしまいます。
現在信用情報に事故情報が登録されていても国や自治体に知られる可能性はほぼ0%といえますから、まずは安心しましょう。
3.家族がブラック状態の場合の影響
自分が金融ブラックでなくても、親や配偶者が過去に返済を長期延滞したり債務整理したりして、家族の信用情報に事故情報が登録されているケースがあります。
そんなとき、家族の信用情報が影響して公務員になれないリスクがあるのでしょうか?
こちらについても、心配ありません。
先にもご説明したとおり、国や自治体が個人の信用情報を参照する権限はないからです。
本人の情報すら照会できないのですから、その家族について照会できるはずがありません。
世間では「国や自治体などは採用の際に身辺調査をするので借金がバレる」と思われているケースが多々ありますが、通常は借金の調査など行われていないと考えられます。
身の回りに借金を抱えている親族やブラック状態の家族がいても公務員にはなれるので、あきらめる必要はありません。
4.借金やブラック状態がバレると懲戒免職される?
借金トラブルを抱えていたり債務整理歴があって信用情報に事故情報が登録されていたりすると、「懲戒免職」される可能性はないのでしょうか?
公務員には懲戒制度が適用されます。欠格事由がなくても懲戒事由に該当すると、最悪の場合免職されて職を失う可能性があるので注意が必要です。
以下で懲戒制度の内容や借金問題で懲戒される可能性があるのか、みてみましょう。
4-1.懲戒制度とは
公務員の懲戒制度とは、公務員としてあるまじき非行のある人へペナルティを与える制度です。法律に違反する行為や職務怠慢行為、その他の非行のある場合に懲戒制度が適用されます。
懲戒には以下の4種類が規定されています。
- 戒告
本人に対し、問題行動について厳重に注意する処分です。直接的な給料や仕事に対する影響はありませんが、勤勉手当の割合を減らされたり、人事記録に記載されて将来の昇給や昇進が抑制されたりする可能性があります。
- 減給
俸給(給料)を減らされる処分です。
- 停職
一定期間、公務員としての仕事ができなくなる処分です。停職期間は1日以上1年以下と規定されています。
- 免職
公務員としての職を解かれる処分です。免職されると退職金も支給されません。また懲戒免職されると、処分日から2年間「欠格事由」が生じ、処分日から2年が経過しないと、同じ自治体では採用してもらえません。
数ある懲戒処分の中でも、もっとも重い懲戒処分といえるでしょう。
なお上記に該当しない場合でも、訓告や厳重注意などの処分が行われるケースがあります。
訓告は監督者が各職員の義務違反に対して注意すること、厳重注意はそれよりもさらに軽い注意です。訓告や厳重注意は法律上の懲戒処分ではありません。
4-2.借金問題は懲戒に影響しない
借金を抱えていたり信用情報に事故情報が登録されていたりしても、懲戒処分の対象にはなりません。
借金問題はあくまで「個人的な問題」であり、公務員としての非行ではないからです。
たとえ借金返済を延滞して給料を差し押さえられたとしても、懲戒事由には該当しません。
懲戒事由になる事例
参考までに公務員として懲戒される可能性が高いのは、以下のような行為があった場合です。
- 公金横領や収賄などの職務に関する犯罪行為
- 盗撮や痴漢などの職務と無関係な犯罪行為
- 飲酒運転などの悪質な交通違反、重大な交通事故
- 情報漏えいなどの職務上の重大な過失
- 悪質なパワハラやセクハラ
- 秘密でアルバイトなどの副業をしていた
上記のような行為があった場合でも、すべてのケースで「免職」されるわけではありません。
交通違反やプライベートな盗撮などの犯罪の場合には「停職」までの処分で済むケースも多数です。
懲戒免職されるのは、公金横領した場合など職務上の犯罪で公務員の信用を失墜させた場合など問題行動が極めて重大なケースに限られると考えましょう。
5.自己破産すると公務員になれない場合がある?
過去に債務整理をしても欠格事由や懲戒事由になりませんが「自己破産」する場合には問題が生じる可能性があります。
5-1.自己破産の資格制限で影響を受ける職種
自己破産には「資格制限」が適用されます。資格制限とは、自己破産手続き中に一定の職業や資格を制限されることです。
一般の国家公務員や地方公務員の資格は制限されませんが、一部の公務員は資格制限の対象となっています。具体的には以下のような仕事をしている場合です。
- 人事官
- 各種委員会の委員や委員長
都道府県公害審査会の委員、公害等調整委員会、公安審査委員会などの委員長や委員、公正取引委員会の委員長や委員などは資格制限の対象です。自己破産中にはこういった職につけません。
- 公庫の役員
環境衛生金融公庫、住宅金融支援機構、日本政策金融公庫などの公庫「役員」は資格制限の対象になります。ただし一般の従業員は対象外ですので、就職できます。
- 公証人
公証役場に勤務する公証人の資格は制限対象です。
- 簡易郵便局長
自己破産手続き中は簡易郵便局長になれません。一般の従業員は資格制限の対象外です。
もしも上記のような仕事をしている方が自己破産をすると、一定期間仕事ができなくなる可能性があるので注意しましょう。
5-2.資格制限される期間
自己破産によって資格制限されるのは、「破産手続開始決定後、免責決定が確定するまでの間」です。
同時廃止になった場合には3ヶ月程度、管財事件となった場合には6ヶ月程度となるでしょう。
5-3.一般の公務員は資格制限の対象にならない
過去に自己破産をしていても、免責決定が確定していたら資格制限は及びません。また公務員の中でも資格制限されるのは、上記のような相当特殊な地位にある場合に限られます。
一般の国家公務員や地方公務員の場合には資格制限の対象外なので、過度に心配する必要はありません。
6.金融ブラックでも共済貸付を受けられる?
公務員の場合、住居を購入する際などに「共済組合」から貸付を受けられます。
低金利で無担保など有利な条件で借りられるので、利用したい方もおられるでしょう。
信用情報に事故情報や登録されている「ブラック状態」でも、共済貸付を受けられるのでしょうか?貸付審査に申し込むと信用情報をみられて借金トラブルを知られる危険性がないのか、合わせて確認しましょう。
6-1.共済組合は信用情報を参照しない
結論的に、信用情報に延滞情報や過去の債務整理による事故情報が登録されていても、共済貸付を利用できる可能性があります。共済貸付の際には信用情報を参照されないからです。
共済貸付は、公務員の「給料」や「退職金」を担保とする制度といえます。というのも公務員は毎月確実に給料を受け取りますし、退職時には懲戒免職されない限り退職金を受け取れる立場です。これらを担保にするため、共済貸付の際には厳重な審査を行う必要がありません。
また共済組合は「営利目的」を持ちません。公務員が助け合うための自助福祉目的で設置されているものです。利益をあげなくてよいので、低金利や無担保などの民間金融機関より有利な条件を設定しても運営していけます。このように、共済組合は民間金融機関や貸金業者とは異なる位置づけにあるので、信用情報を参照しません。
公務員である限り、信用情報がブラックであっても共済貸付の審査に通る可能性は高いといえるでしょう。
6-2.共済貸付を申し込んでもブラック状態はバレない
共済貸付を申し込むと、職場に過去の借金延滞履歴や債務整理歴を知られてしまう可能性があるのでしょうか?
上記のように共済組合は貸付審査の際、信用情報を参照しません。よって過去の延滞履歴や債務整理歴を職場に知られる危険はありません。
職場に借金トラブルを知られたくない場合でも、安心して共済貸付を利用するとよいでしょう。
7.借金滞納による差し押さえに要注意
現在公務員となっている方で借金を滞納してしまっている場合には「差押え」に注意してください。
消費者金融やクレジットカードなどの返済を延滞し続けると、債権者は裁判を起こしてきます。判決や支払督促の決定があると、給料や預貯金などを差し押さえられる可能性があります。
公務員の場合、自主的に辞める方がほとんどいません。債権者にしてみると、ほぼ確実に給料を差し押さえられるメリットがあるといえるでしょう。共済組合で貯金をしている方も多いので、貯金を差し押さえたら多くの貸付金を回収できる可能性も高い状況です。
給料や共済貯金を差し押さえられると、職場に借金トラブルを知られるのを避けられません。確かに懲戒処分の対象にはなりませんが、噂が広まったりして居心地が悪くなる可能性があります。日々の生活もさらに苦しくなってしまうでしょう。
もしも現在借金がかさんでいて支払いが苦しいなら、早めに債務整理するようおすすめします。債務整理をして信用情報に事故情報が登録されても、公務員の欠格事由になりませんし懲戒もされません。共済貸付さえ受けていなければ職場に知られず任意整理や自己破産もできるので、秘密にしている方も早めに相談してみてください。
8.信用情報や借金トラブルは弁護士へお任せください
信用情報に事故情報が登録されていても、基本的に公務員の就職やその後の地位に影響しません。また事故情報が間違って登録されているなら、抹消できる可能性もあります。
借金トラブルを抱えている場合、公務員の方でも債務整理で解決されるケースが多いので早めに弁護士に相談して解決しましょう。
当事務所では信用情報の訂正や借金トラブルの解決に積極的に取り組んでいます。公務員になりたい方や公務員の方で金融ブラック情報や借金にお悩みの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。