
貸与型の奨学金を利用すると、卒業後に返済しなければなりません。
もしも延滞してしまったら信用情報に傷がついてしまうのでしょうか?
奨学金の延滞で信用情報に事故情報が登録されてしまったら、クレジットカードもローンも一切利用できない状態になってしまうので大変です。
今回は奨学金と信用情報の関係、奨学金を減額・免除してもらう方法を専門家が解説します。
奨学金の返済が厳しくなっている方はぜひ参考にしてみてください。
1.奨学金を返済できない人が増えて社会問題に
奨学金を利用すると、手元にあまりお金がなくても大学や大学院などに通って高等教育を受けられます。
最近ではいろいろな団体が奨学金制度を運営するケースも増えており、利用しやすくなっているといえるでしょう。
日本で特に利用者の多いのが「日本学生支援機構(JASSO)」の奨学金です。
日本学生支援機構の奨学金には給付型と貸与型の2種類があり、貸与型の奨学金を利用した場合には学校卒業後に返済しなければなりません。
ところが近年、この奨学金の返済に苦しむ方が増えているといわれています。非正規雇用者や低収入の若者が増えたのと、借入額が大きいのとで支払が困難となるのです。
テレビやネットニュースなどでもしょっちゅう報道されているので、「奨学金を返済できない若者が増えて社会問題になっている」と聞いたことのある方も多いでしょう。
2.奨学金を滞納すると信用情報に事故情報が登録される
奨学金を返済できなかったら、もちろん日本学生支援機構から督促が来ます。
それだけではなく信用情報に傷がついてしまうリスクもあるので、軽く考えてはなりません。
信用情報に傷がつく、というのは信用情報に「延滞情報」や保証会社による「代位弁済情報」が登録されてしまうことを意味します。
信用情報とは、個人のローンやクレジットカードの利用履歴に関する情報。
延滞情報が登録されると「この人に貸付をすると返済遅延の危険が高い」と思われるので、ローンやクレジットの審査に通らなくなってしまいます。
奨学金を延滞すると、一般のクレジットカードの発行も受けられず住宅ローンや車のローンなども利用できなくなってしまうので、必ず期日には引き落とし口座に入金しておきましょう。
3.日本学生支援機構はKSCに加盟している
なぜ奨学金を延滞すると事故情報が登録されてしまうのでしょうか?
それは日本学生支援機構が「KSC」という信用情報機関に加盟しているからです。
日本の信用情報機関には以下の3種類があります。
- JICC
消費者金融会社が主に加盟している信用情報機関です。
- CIC
カード会社や信販会社が主に加盟している信用情報機関です。
- KSC
銀行や信用金庫などの金融機関が加盟している信用情報機関です。
日本学生支援機構は、もともとは信用情報機関に加盟していなかったため、2009年以前に奨学金を利用した方は支払をしなくても信用情報に延滞情報が登録されませんでした。
しかしその後日本学生支援機構がKSCに加盟したため、2009年以降に奨学金を借りて長期延滞した方は、延滞情報が登録される可能姓があります。
2021年現時点、日本学生支援機構の奨学金を長期延滞すると、クレジットカードやローンを利用できないいわゆる「ブラックリスト」の状態になってしまうと考えましょう。
信用情報は共有されている
日本学生支援機構は3つの信用情報機関のうち、KSCにしか加盟していません。
それであればJICCやCICには延滞情報が登録されず、これらに加盟している消費者金融やクレジットカード会社なら利用できるのでは?と考える方もおられるでしょう。
しかしそれは難しいと考えてください。
3つの信用情報機関はCRINというシステムを使って事故情報を共有しているためです。1つの信用情報機関で事故情報が登録されたら他の信用情報機関にも情報が伝わるので、別の信用情報機関に加盟している事業者からも貸付を受けられません。
奨学金を滞納したら、銀行ローンだけではなくクレジットカードやリボ払い、分割払い、消費者金融などすべて利用できなくなると考えましょう。
4.奨学金を滞納すると何が起こるのか?
実際に奨学金を長期滞納してKSCに延滞情報が登録されると、どういった問題が発生するのでしょうか?
- クレジットカードの審査に通らない
- 住宅ローン、車のローンを利用できない
- スマホの端末代分割払いを拒否される
- 今まで使えていたクレジットカードを強制解約されてしまう
- 保証会社を利用するタイプの賃貸借契約の審査に落とされる
上記のような問題が起こり、生活に支障が出る可能性が高くなります。
ご家族や恋人がいる方には、そういった周囲の人にも心配をかけてしまうでしょう。
- 家を買おうと思ったのに、旦那が奨学金を滞納したので住宅ローンを利用できない
- 彼氏が奨学金延滞でブラックリストになっているらしく、結婚生活が不安
結婚の予定があっても相手や相手の親が不安を感じるなど、マイナスに働いてしまうリスクも発生します。
奨学金延滞によるブラックリスト問題を軽く考えるべきではありません。
5.日本学生支援機構が信用情報機関に事故情報を登録する条件は?
奨学金を運営している日本学生支援機構は、具体的にどういった条件を満たしたときに事故情報を登録するのでしょうか?
5-1.登録されるのは「同意書」を提出している人
日本学生支援機構から延滞情報を登録されるのは、機構に対して「同意書」を提出した人のみです。同意書とは、個人信用情報の取扱に関する同意書であり、奨学金の利用を申し込むときに一緒に提出する扱いになっています。
日本学生支援機構では「平成21年(2009年)4月以降」に貸与型の奨学金を利用する学生に対し、同意書の提出を義務づけるようになりました。それ以降に日本学生支援機構の奨学金を利用した方は同意書を提出しているはずなので、延滞によって事故情報が登録されるリスクがあると考えましょう。
5-2.延滞が3ヶ月以上になった場合
同意書を提出している方の中でも、延滞によって事故情報が登録されるのは「延滞期間が3ヶ月以上になった場合」に限られます。
2ヶ月までであれば、遅れても基本的に事故情報は登録されません。奨学金の支払が遅れてしまったときには、何とかお金を用意して3ヶ月分に達するまでに支払をすればブラックリスト状態を免れます。
5-3.返済開始後6ヶ月が経過している
奨学金の返済を新しく開始する方の場合、「返還開始後6ヶ月」が経過した時点で延滞状況を審査されます。日本学生支援機構では学校の「卒業後6ヶ月が経過したとき」に返済が始まるので、さらにその半年後の「卒業後1年が経過した時点」ではじめて延滞情報の審査をされる、ということになります。
返済開始後6ヶ月が経過した時点で3ヶ月分以上の延滞が確認されるとKSCへ情報が通知され、事故情報が登録されます。
たとえば令和3年4月に卒業した方の場合、通常は令和3年10月に返済開始となります。そこから6ヶ月が経過した令和4年4月の時点で3ヶ月分以上の遅延があると、事故情報が登録される、という流れです。
2回目以降の延滞状態の判定は毎月行われるので、3ヶ月以上延滞しないように注意して返済を続けましょう。
5-4.KSCに登録される情報の内容は?
日本学生支援機構の奨学金を利用すると、KSCに以下のような情報が登録されます。
- 氏名や住所、生年月日、電話番号、勤務先などの個人情報
- 貸与額や最終返還日などの契約内容に関する情報
- 延滞や代位弁済などの遅延情報
- 完済情報
上記のうち、延滞や代位弁済がいわゆる「事故情報」であり、これが登録されると「ブラックリスト状態」となってローンやクレジットカードの利用ができなくなります。
6.奨学金の事故情報はいつ消える?
日本学生支援機構の奨学金を滞納して事故情報が登録されたら、いつ消してもらえるのでしょうか?
いったん事故情報が登録されてしまったら、延滞状態を解消しない限り抹消してもらえません。
また延滞状態を解消しても、すぐには抹消されないので注意が必要です。
日本学生支援機構のサイトによると、完全に情報が消えるのは返還を完了してから5年後と発表されています。
https://www.jasso.go.jp/shogakukin/entai/kojinjoho.html
7.他の奨学金なら大丈夫?
日本で利用できる奨学金制度は日本学生支援機構のものに限られません。他のさまざまな団体も給付型や貸与型の奨学金を運営しています。
まず給付型の奨学金であれば、返済の必要はありません。
貸与型の奨学金であっても、信用情報機関に加盟していない団体のものであれば滞納しても事故情報は登録されません。2021年時点において、日本学生支援機構以外で信用情報機関に加盟している奨学金運用団体は多くはないでしょう。
また信用情報に事故情報を登録するには本人による「個人情報取扱に関する同意書」の差し入れが必要です。奨学金申請の際にそういった書類を提出していないなら、その団体では返済を延滞しても事故情報は登録されないと考えてかまわないでしょう。
ただしこれは一般的な運用ですので、実際の信用情報取扱の詳細については、個別に利用している奨学金運営団体に確認してみてください。
8.奨学金を返せないときの減免対応について
日本学生支援機構で奨学金を利用して返還が難しくなったら、無断で滞納するのではなく「減額返還」や「返還期限猶予」の制度を利用しましょう。
8-1.減額返還制度とは
奨学金の減額返還制度は、災害や病気、けが、経済的な理由によって奨学金の返還が難しい方が一定期間、月々の返済額を減額してもらえる制度です。
たとえば月額6万円返還している方の場合、月額2万円程度にまで返済額を落としてもらえる可能性があります。
平成28年の熊本地震に被災して返還が困難となった方にも減額返還制度が適用されます。
1回の申出につき12ヶ月延長してもらうことができて、最大延長期間は15年(180か月)とされています。
減額返還制度の注意点
減額返還制度によって「減額」されるのは「月々の返済額」です。「返済総額」は減額されないので注意しましょう。総額は変わらないので、月々の返済額が減る分、期間を延長して完済しなければなりません。利息もかかり続けます。
基準の緩和によって利用しやすくなった
近年、経済的な事情で奨学金を返せない方が増えたこともあり、減額返還制度を利用できる条件が緩和されました。
本人について一律「25万円」を所得から控除して計算したり、本人によって扶養されている親族がいる場合には1人について「38万円」を控除できたりするので、従来よりも適用できる人が増える可能性があります。
医療費控除も引き続き適用できますし、提出用の書類も簡素化されて利用しやすく改定されています。
奨学金の返済が苦しくなったときには、一度減額返還制度を適用できないか日本学生支援機構に相談してみましょう。
8-2.返還期限猶予制度とは
減額返還制度を利用しても返済が困難な方の場合「返還期限猶予制度」を利用すれば状況を改善できる可能性があります。
返還期限猶予制度とは、災害や病気、けが、失業や低収入などの経済的な困難な事情によって奨学金の返済が難しくなったとき、一定期間返済を待ってもらえる制度です。
延滞する前にきちんとこちらの制度を適用してもらえたら、督促されて裁判を起こされるリスクはありません。
返還期限猶予制度が適用されると、承認された期間は一切奨学金を返還する必要がなくなり、猶予期間が終了すると返還が再開されるという流れです。
ただし返還期限猶予制度の場合にも返済総額が減額されるわけではありません。返済しなかった分期間を延長され、完済時期が先に延びます。その間、利息も発生し続けるので注意しましょう。
返還を猶予してもらえる期間は?
返還期限猶予制度によって奨学金の返還を免除してもらえる期間は、返還できない理由によって異なります。
経済的な困難などの一般的な事情の場合、最大10年(120ヶ月)。ただし既に10年の返還期限猶予制度を適用している方の場合でも、新型コロナウイルス感染症の影響によって返還が難しくなってしまった方の場合には、緊急措置としてさらに12ヶ月(1年)、返還期限の延長を申し出ることができると発表されています。
また以下の場合、10年の制限なしに適用を受けられる可能姓があります。
- 災害
- 病気、けが
- 生活保護受給中
- 産前産後休業、育児休業
- 一部の大学への在学
- 海外派遣
奨学金の返済が難しくなった方は、無断で滞納する前に日本学生支援機構へ相談してみましょう。
9.奨学金の返還を免除してもらえるケース
日本学生支援機構では、奨学金の返済を免除してもらえる制度も用意されています。
ただしこれに該当するのは以下のような特殊な場合であり、経済的に困難というだけでは適用は困難です。
- 本人が死亡した
- 本人が精神障害者、身体障害者となった
なお平成15年度以前に大学院の第一種奨学生となった方や平成9年度以前に大学、短期大学、高等専門学校に入学して第一種奨学生となった方は、教職や研究職に就いたときに奨学金を免除される可能性があります(現在はこの制度は廃止されています)。
10.奨学金を返せないときには弁護士へご相談ください
日本学生支援機構の奨学金を借りて返済せずに放置していると、3ヶ月もすれば信用情報に事故情報が登録されていわゆる「ブラックリスト」状態になってしまいます。そうなると、ローンもクレジットカードも一切利用できません。
日本学生支援機構以外の奨学金であっても、延滞して放置していたら督促されたり訴訟を起こされたりする可能性もあります。
奨学金には各種の減免制度が用意されているケースも多いので、返済できなくなったら放置するのではなく奨学金運営団体に相談してみてください。減免制度の適用は「延滞していないこと」が条件とされるケースもあるので、早めの対応が重要です。
どうしても返せない場合、債務整理で解決する方法もあります。
当事務所では、個人信用情報の開示請求や間違った事故情報の訂正、債務整理手続きに積極的に取り組んでいます。事故情報の抹消申請は完全成功報酬制としており、抹消できなければ費用は発生しません。
奨学金を延滞して事故情報が登録されたかどうか心配な方、身に覚えがないのになぜかカードやローンの審査にとおらない方、奨学金やその他の借金がかさんで債務整理を考えている方がおられましたら、一度お気軽にご相談ください。